技術情報
エポキシ樹脂硬化促進剤
エポキシ樹脂は接着性、耐食性をはじめ、機械特性、耐熱性、電気特性などの優れた性能を有している。そのため船底・橋りょう・自動車の防食塗料用樹脂、炭素繊維強化樹脂、構造用接着剤だけでなく、電気・電子部品の注型材・封止材などの用途で使われている。また、省エネで長寿命であることから市場が成長しているLEDの封止材としても使用されており、その用途は多岐に及んでいる。エポキシ樹脂を硬化させる際に使用するのがエポキシ樹脂硬化剤で、エポキシ樹脂硬化促進剤を併用する場合もある。エポキシ樹脂硬化促進剤は、硬化速度を速めて生産性を上げ、樹脂の硬さや強度などの諸物性を高める役割を持つ。以降に、サンアプロが注力してきたエポキシ樹脂硬化促進剤について紹介する。
以下からpdfファイルもダウンロード可能です。pdf版は一部古いデータが残っており、本ページが最新となっています。
エポキシ樹脂とは
エポキシ樹脂は分子中に反応性の高いエポキシ基を2個以上持つ化合物で、最も代表的なビスフェノールA型エポキシ樹脂をはじめ、さまざまなエポキシ樹脂が市販されており、それぞれの特徴に応じ て使い分けられている[表1]。エポキシ樹脂は液状あるいは固状の低分子量の化合物であるため、そのままでは塗料用樹脂や接着剤などにはならない。つまり、エポキシ樹脂は通常、エポキシ樹脂硬化剤と呼ばれる化合物と反応させることで初めて使用目的に応じた特性を有する固形樹脂になる。
種類 | 具体例 | 特徴および主用途 |
---|---|---|
ビスフェノールA型 | ・汎用的なエポキシ樹脂で 液状から固状まである ・塗料、接着剤、積層板、 電気・電子部品の封止等 | |
クレゾールノボラック型 | ・耐熱性、耐薬品性、耐水性 に優れる ・半導体封止材、耐熱積層板 粉体塗料 | |
ビフェニル型 | ・低溶融粘度、低吸湿性 ・半導体封止材 | |
臭素化エポキシ樹脂 | ・難燃性付与 ・半導体封止材、積層板 | |
脂環式エポキシ樹脂 | ・LED封止材 ・低粘度で可使時間が長く、 色安定性、熱安定性がよい ・トランス・コイルの封止材 |
エポキシ樹脂硬化剤
エポキシ樹脂硬化剤は、脂肪族ポリアミンやポリアミノアミド、ポリメルカプタンのような低温~室温で硬化するタイプと、芳香族ポリアミンや酸無水物、フェノールノボラック樹脂、ジシアンジアミド(DICY)のように温度を上げないと硬化しない加熱硬化タイプに分類される[表2]。一般的には、低温~室温硬化タイプの硬化剤で固めたエポキシ樹脂はガラス転移点が低く軟らかい硬化物となるため、塗料用途に使用される場合が多い。一方、加熱硬化タイプの硬化剤を使ったエポキシ樹脂はガラス転移点が高く、耐熱性や機械強度に優れており、 電気・電子部品用途に使用されることが多い。
硬化タイプ | 種類 | 具体例 | 配合物および硬化物の特徴と主用途 |
---|---|---|---|
低温~室温 硬化タイプ |
脂肪族ポリアミン | トリエチレンテトラミン |
・接着性に優れる ・小型注型、接着剤 |
ポリアミノアミド | ・ロングポットライフ ・塗料 |
||
ポリメルカプタン類 | ・低温硬化性に優れる ・接着剤 |
||
加熱硬化タイプ | 芳香族ポリアミン | ジアミノジフェニルメタンなど | ・耐熱耐薬品性に優れる ・ガラス繊維積層用 |
酸無水物 | 3-メチルテトラヒドロフタル酸無水物 |
・配合物は低粘度で硬化物 は電気特性に優れる ・LED、封止材、積層板 粉体塗料 |
|
フェノール樹脂 | フェノールノボラック樹脂 |
・耐薬品性、電気特性に優れる ・半導体封止材、積層板 |
|
ジシアンジアミド (DICY) |
ジシアンジアミド(DICY) |
・潜在性(ロングポットライフ) に優れる ・積層板、粉体塗料、接着剤 |
※潜在性:一定の温度に達してはじめて硬化反応を起こすこと。
エポキシ樹脂硬化促進剤
加熱硬化タイプの硬化剤を使用するエポキシ樹脂において、硬化剤が芳香族ポリアミンの場合では、その硬化反応は加熱によって比較的容易に進む。しかしながら、硬化剤が、①酸無水物系、②フェノールノボラック樹脂系、③DICY系の場合では、これらが有する官能基とエポキシ基との反応性が低いため、エポキシ樹脂の硬化反応は加熱しても容易には進まない。したがって、硬化反応の速度を速めて、樹脂の硬さや強度を高めるためには、エポキシ樹脂硬化促進剤を併用する必要がある。例えば、液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂と酸無水物系硬化剤を120 ℃で1時間加熱しても硬化しないが、サンアプロの硬化促進剤 『U-CAT SA 102』を併用すれば十数分で硬化する。このように加熱硬化タイプの硬化剤を使うエポキシ樹脂では、エポキシ樹脂硬化促進剤の役割が非常に重要であり、現在さまざまなものが市販されている[表3]。サンアプロも有機超強塩基系のDBU(1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7)やDBN(1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5)、それらの有機酸塩である『U-CAT SA®』シリーズ、さらには特殊アミン系・尿素系・リン系などの『U-CAT®』シリーズを数多く品ぞろえしており、各種用途で使用いただいている[表4]。
種類 | 具体例 |
||
---|---|---|---|
三級アミン 三級アミン塩 |
DBU DBN |
トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール |
|
イミダゾール | 1-シアノエチル2-エチル4メチルイミダゾール |
2-エチル4メチルイミダゾール |
|
ホスフィン |
トリフェニルホスフィン |
テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート |
|
特殊品 | 3-フェニル-1,1’ジメチルウレア |
スルホニウム塩系 |
製品名 | 組成 | 主たる対象硬化剤 | 主な用途 |
---|---|---|---|
DBU | 1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7 | フェノールノボラック樹脂 | 接着剤、塗料、半導体封止材 |
DBN | 1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5 | フェノールノボラック樹脂 | 接着剤、塗料、半導体封止材 |
U-CAT SA 1 | DBUのフェノール塩 | 酸無水物 | LED、人工大理石、液状封止材、粉体塗料 |
U-CAT SA 102 | DBUのオクチル酸塩 | ||
U-CAT SA 506 | DBUのp-トルエンスルホン酸塩 | ||
U-CAT SA 603 | DBUのギ酸塩 | ||
U-CAT SA 810 | DBUのo-フタル酸塩 | ||
U-CAT 5002 | DBU誘導体のテトラフェニルボレート | ||
U-CAT 5003 | 4級ホスホニウム塩 | ||
U-CAT 18X | 特殊アミン | ||
U-CAT SA 831・841・851 | DBUのフェノールノボラック樹脂塩 | フェノールノボラック樹脂 | 半導体封止材 |
U-CAT 881 | DBNのフェノールノボラック樹脂塩 | ||
U-CAT 891 | DBNの特殊フェノール樹脂塩 | ||
U-CAT 3512T | 芳香族ジメチルウレア | ジシアンジアミド(DICY) | 積層板・粉体塗料 |
U-CAT 3513N | 脂肪族ジメチルウレア |
①酸無水物系硬化剤用硬化促進剤
モーターのコイル、トランスあるいはLEDなどの電気・電子部品は、湿気や振動から守るために樹脂で含浸あるいは封止される。この用途には一般に酸無水物系硬化剤を使用するエポキシ樹脂が使われる。LEDの封止材として使用される場合では、エポキシ樹脂硬化促進剤には、電気特性を損なわないことに加えて、硬化反応時に急激な発熱がないこと、さらには硬化後の樹脂の着色が少ないことが求められる。サンアプロのエポキシ樹脂硬化促進剤『U-CAT SA 102』(DBUのオクチル酸塩)は、液状酸無水物硬化系用の代表的なグレードで、 硬化時の発熱が穏やかであり、その硬化樹脂の着色が少ない。図1に『U-CAT SA 102』を使用した場合の硬化促進データ(ゲルタイム)を、図2に硬化発熱データを示す。急激な硬化発熱は硬化樹脂を着色させ、発生した内部ひずみのために接着性を悪化させる。 『U-CAT SA 102』はLED封止用途では理想的といえる。硬化発熱の挙動をさらに穏やかにした製品が『U-CAT SA 506』である。この製品はDBUと強酸であるp-トルエンスルホン酸からなる塩で、触媒活性を発現させる温度が高いため、『U-CAT SA 102』と併用すると硬化発熱の挙動が非常に穏やかになる。さらに近年、エネルギー消費量が少なく寿命も長いことから、テレビやパソコンのディスプレーや自動車のメーターパネルにおけるバックライトなど、高いレベルの色再現性が求められる分野で、白色のLEDが使用されている。照明などと比べて取り替えにくいこの用途では、より長時間にわたって高いレベルの色再現性を保持させる、すなわちLED封止材の透明性を長く維持させる必要がある。そこでサンアプロでは、構造内のカチオン成分の置換基を変えるなど組成を工夫することによって、 高いレベルでの色再現性を保持できる新規のエポキシ樹脂硬化促進剤を開発した。この開発品を使用して硬化させたエポキシ樹脂は、 耐熱性および耐光性が改良されている。独自の耐久テストにおいて、 この開発品を使用したLED封止材の耐久性は、従来のものと比較して約30%改善している[図3、4]。 また、LED封止材に求められる性能も多様化しているため、2種類 (ホスホニウム系『U-CAT 5003』とアンモニウム系『U-CAT 18X』)のエポキシ硬化促進剤をラインナップした。
図1 『U-CAT SA 102』を使用した場合の硬化促進特性 図2 『U-CAT SA 102』を使用した場合の硬化発熱曲線
図3 ホスホニウム系、アンモニウム系を使用したエポキシ樹脂の耐熱性 図4 ホスホニウム系、アンモニウム系を使用したエポキシ樹脂の耐熱性
②フェノールノボラック樹脂系硬化剤用硬化促進剤
半導体素子は通常黒い樹脂で覆われている。この樹脂は半導体封止材と呼ばれるエポキシ樹脂と充てん材の複合体で、シリコンウエハーから切り取ったシリコンチップをごみ、湿気、衝撃などから守っている[図5]。この封止材のエポキシ樹脂にはクレゾールノボラック系やビフェニル系が、硬化剤にはフェノールノボラック系が主流である。さらに充てん剤として微粉末シリカが70質量%以上使用され、耐熱性や機械特性を向上させている。この用途に使われる硬化促進剤には次のようなことが要求される。
第1に成型サイクルに見合った硬化促進性能を有することである。半導体の封止では主にトランスファー成型という方法が用いられ、封止材を注入後、175℃で1~2分後に脱型する(その後必要によりアフターキュアが行われる)。 そのため、エポキシ樹脂の流動性がなくなるゲルタイムを25~35秒程度にする必要がある。
第2に粉末であることである。封止材は、固形のエポキシ樹脂や硬化剤、微粉末シリカなど粉体原料を混ぜ合わせ、ロールなどで混練して作られる。したがって、原料がよく混ざり合うよう硬化促進剤は粉体であることが好ましい。
第3に硬化物が良好な機械物性・電気絶縁性を示すことである。この用途に適するサンアプロの代表的な硬化促進剤が、DBUとフェノールノボラック樹脂からなる塩『U-CAT SA831、SA841、SA851』シリーズである。微粉末状で作業性に優れ、得られたエポキシ樹脂硬化物は電気絶縁性、耐湿熱性、密着性に優れる。図6にこのシリーズ品を用いたときのエポキシ樹脂の硬化挙動のデータを示す。
図6 半導体パッケージ(ディスクリート用)の断面図 図7 『U-CAT SA 841』を使用した場合の硬化挙動
③DICY系硬化剤用硬化促進剤
風力発電用プロペラなどの炭素繊維複合材料に使用されるエポキシ樹脂には、DICY系硬化剤が用いられる。このDICY系硬化剤は室温ではエポキシ樹脂に溶解せず、分散しているため、エポキシ樹脂との配合物は室温で安定である(高温では溶解し、エポキシ樹脂と反応する)。ただし、DICY単独では硬化温度が約200℃と高く、またDICYが完全には溶解しないため、一部未反応のものが粒子状で残存しやすい欠点がある。この問題に対しては、サンアプロの尿素系硬化促進剤『U-CAT 3512T』または『U-CAT 3513N』 が有効である。これらの硬化促進剤は、エポキシ樹脂/DICYの室温での潜在性が損なわれず、120 ℃以上で硬化反応が始まり、かつDICYのエポキシ樹脂への溶解性が高い構造を有している。
表5に 『U-CAT 3512T』および『U-CAT 3513N』の硬化特性(ゲルタイム)と保存安定性(ポットライフ)のデータを示す。
製品名 | 添加量(部) | ゲルタイム(min) | ポットライフ(day) |
---|---|---|---|
U-CAT 3512T | 0.5 | 18 | 13 |
U-CAT 3513N | 3.0 | 21 | >60 |
以上、サンアプロの既存製品を中心にエポキシ樹脂硬化促進剤を概説した。