技術情報

熱酸発生剤について

 熱酸発生剤(Thermal Acid Generator: TAG)とは、加熱することにより酸を発生する機能をもつ物質です。
ここでは、当社ラインナップの熱酸発生剤ついて解説していきます。

 

1.熱酸発生剤(TAG)としての利用について

 TA-100シリーズはスルホニウム塩型、IK-1シリーズはヨードニウム塩型の熱酸発生剤(TAG)です。
TA-100の基本的な熱特性を表1に示します。TAG単体で加熱したときの熱分解温度は、IK-1が247℃に対して、TA-100では156℃となります。

表1 熱特性一覧

 ビスフェノールA型グリシジルエーテルであるjER® 828に配合した場合のヒートフローを下図に示します。
表1でも示した通り、IK-1が210℃で重合開始するのに対し、TA-100は100℃で重合開始します。

また、脂環式エポキシであるセロキサイドP2021に配合した場合のヒートフローも下図に示します。
こちらのモノマーではIK-1が125℃で重合開始するのに対し、TA-100は70℃で重合開始します。

図1,2 DSCによるカチオン重合発熱挙動(左:Bisphenol A type epoxy、右:Alicyclic epoxy


2.硬化物の着色抑制について

 TA-100シリーズには、対アニオンがPF3(C2F5)3であるTA-100と、対アニオンがFGアニオンであるTA-100FGの2種類がラインナップされています。TA-100とTA-100FGは、酸発生温度や発生酸酸強度については同等ですが、硬化物の着色性の点で大きな違いがあります。
図3に示す通り、FGアニオンを使用したTA-100FGでは、高温下でも硬化物の着色性を抑えることが出来ます。

またIK-1シリーズに関しても、対アニオンがFGアニオンであるIK-1FGを開発いたしました。
IK-1FGについてもTA-100FGと同様に、硬化物の着色を大きく抑制することが可能です。

図3 硬化樹脂の加熱処理前後の外観


3.各種溶剤・モノマーに対する溶解性について

 TA-100に関してもIK-1に関しても、各種有機溶剤やモノマーに対して優れた溶解性を示します。

表2 各種溶剤への溶解性

表3 各種モノマーへの溶解性


4.貯蔵安定性について

 TA-100を配合した樹脂の貯蔵安定性(増粘係数が2.0以下の期間)を表4に示します。
表で示す通り、ビスフェノールA型グリシジルエーテルであるjER 828に配合した場合、とりわけ優れた貯蔵安定性を示します。

表4 モノマー中での貯蔵安定性


5.光酸発生剤(PAG)としての利用について (IK-1シリーズのみ)

 TA-100シリーズについては、十分な光応答性を持たないため熱酸発生剤(TAG)としての利用のみが可能です。
これに対しIK-1シリーズでは、波長300nm以下に強い光吸収スペクトルを有しており、熱酸発生剤(TAG)のみならず光酸発生剤(PAG)としての利用も可能となります。

IK-1シリーズを光酸発生剤(PAG)として利用する場合、特に光源としてi線(365nm)等を利用する場合については増感剤が必要となります。
増感剤としては、市販品として入手可能なジブトキシアントラセン(DBA)などのアントラセン系、イソプロピルチオキサントン(IPTX)などのチオキサントン系の増感剤が、大きな増感効果を期待できます。
IK-1および増感剤のアセトニトリル中でのUV吸収スペクトルを図4に示します。

図4 アセトニトリル中のUV吸収スペクトル

 IK-1は発生酸がHPF3(C2F5)3であるため、脱保護反応やカチオン重合反応などに高活性を示します。
そのため、従来のB(C6F5)4アニオンを使用したヨードニウム塩型PAGよりも少ない光照射量で光硬化することが可能です。
図5に脂環式エポキシ樹脂に配合した際の光硬化反応実験の結果を示します。

図5 UV硬化性(鉛筆硬度試験)


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